丸石神紀行

十三年前の地図を頼りに丸石神を求め、山梨県を徒歩で旅したさまよいの旅行記。

  1. 序文:
  2. 丸石神誕生:
  3. 丸石神信仰:
  4. 丸石神分布:
  5. 終文:

1.序文 - 3

 ふと、行く手におかしなものを見た。怪訝に目を凝らすと、成田空港の鳥居的光景が山梨に展開している。郵便局の駐車場、白く真新しいコンクリートの上に、古めかしい祠がちょこんと座っているのだ。もしや、と息を呑んだ。ごそごそ引き出した地図を見ると、確かにそこに丸印が穿ってある。整備された公共施設の一画に、疑いがわいた。期待半分警戒心半分で、そろそろと足を進めてゆく。こんな事で緊張しているのか、胸が鳴っている。祠は陰って遠目では中身が分からない。近眼の目をこすりつつ、私は恐る恐るかがんで暗がりを覗いた。

 瞬間、短い歓声が口を突いた。刺のない柔らかな輪郭に、固くざらざらした肌、重々しい量感。中に納まっているものは、まぎれもなく丸石神であった。一抱えもあろうかという大きさをたずさえて、予想以上に堂々と祀られている。大袈裟で滑稽なくらいだ。丸いだけの石を前に、私は考えられないような興奮に襲われていた。これが丸石神かと叫び出したい気持ちを押さえ、無我夢中でシャッターを切った。頬を染めてはしゃぎ、手を叩き、顔には満面の笑みすら浮かぶ。端から見ると、どう考えても祠が大好きな人である。並ならぬ執着を祠に抱く、良く分からないながらも凄い生き様だ。

 思う存分丸石を拝んだ後、私は舞うような気持ちで線路を越えた。十三年前の地図の通り、線路越しの坂に丸石神が祀られている。こちらはいかにもざっくばらんな調子で、大きめの丸石が豪快に積み上げられていた。その横には祠があり、小さな丸石がおしとやかに納まっている。大きな丸石達は、まるで一つの小さな丸石が寂しくないように、どんどん連れて来られたかのようだ。

 二つを回った時点で、私は確信した。十年前の地図通り、丸石神は今も祀られている。無数の丸印ひしめくまま、不思議な神は山梨中に息づいているのだと。

←前へ 次へ→ ↑上へ