丸石神紀行

十三年前の地図を頼りに丸石神を求め、山梨県を徒歩で旅したさまよいの旅行記。

  1. 序文:
  2. 丸石神誕生:
  3. 丸石神信仰:
  4. 丸石神分布:
  5. 終文:

2.丸石神誕生 - 3

 丸石がどうやって生まれるのかと問われれば、多くの人は石塊が川を下り角が取れ、丸くなったものだと答えるだろう。そう考えるのが一般的であるし、私も疑わなかった。

 しかし果たして、川底を転がるだけで丸石神のような、あれ程も真円に近い美しい形になるのだろうか。山梨は豊かな果実溢れんばかりの土地だが、岩石質の山からは、神秘を湛えた水晶すら産み出す。温泉も湧くし、もう山梨に住むしかない。特色ある土地の伝統に育まれた宝石の研摩技術は、鋭い水晶の原石を完全な球として輝かせる。それは機械では叶わず、職人の手によって磨かれてのみ、生まれ変わるのだ。

 この話を聞くと、ただ気紛れに川を下った石があの丸石になるなんて、難しい様に思われる。では丸石は、どうやって自然に作り出されたのか。

 まず例に上げられるのは、神奈川県真鶴岬付近の海岸に見られる、大量の丸石達だ。この海岸は引きも切らずに打ち寄せる波によってか、丸石がゴロゴロしている。本当にゴロゴロしているだけであり、山梨とのあまりの格差に、神奈川の丸石が可哀想になる程だ。丸石がある事と祀る事は、全く連動していないのだろうか。山梨県民は神奈川県民を不遜に思わないのだろうか。

 ともあれ海の営みは、川より格段に高い確率で丸石を造り出す。山梨はかつて海であり、奥秩父の山々には波が打ち寄せていた。丸石はその時代の名残りと思って良いはずだ。

 ところが、安直に決めつけてしまうのは、まだ早い。日本全国どこにだって海があり、海岸がある。その海岸全てで丸石が採取される訳は勿論なく、山梨だって然りである。これは一つの可能性に過ぎない。

 面白いのは、長野小県郡の言い伝えだ。道祖神ではなく屋敷神として丸石を祀るこの地方では、丸石は竜によって作られる事になっている。竜の多くは水神であり、水あるところに棲むだけでなく、空も駆ける。天と地を行き来するその存在は、まるで水そのものだ。その竜が水底から天に昇る際、利剣の尾先が岩石を穿ち、滝つぼや渓流の凹穴を刻む。これを「けんずり」「りゅうずり」と言うそうだが、そこに石がはまって抜けだせなくなり、長い間水の流れで転がされ、きれいな丸石へと磨かれるのだそうだ。ロマン溢れる伝説に、この説でいいよと言いたいところだが、残念ながら、各所にみられる凹穴や滝、そのどれもに丸石が採取された試しはないようだ。九州を流れる南紀古座川の「滝の拝」など、川床一面に凹穴がひしめく圧巻なのだが、丸石が転がっている気配はないと言う。

 確たる決め手がないまま、丸石形成の話は終わってしまうのだろうか。結局仮説しかないじゃないかと業を煮やしていたところ、ついに最も有力な一説にぶち当った。

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