丸石神紀行

十三年前の地図を頼りに丸石神を求め、山梨県を徒歩で旅したさまよいの旅行記。

  1. 序文:
  2. 丸石神誕生:
  3. 丸石神信仰:
  4. 丸石神分布:
  5. 終文:

3.丸石神信仰 - 1

 脱兎のごとく塩山駅に戻った私は、読み辛い地図に従って山梨駅を目指し始めた。できれば日が暮れるまでに旅を終えたい。カメラを横目に私は焦りを感じた。もっと早くに家を出れば良かったのに、大口を開けて寝ていたのだ。お陰で見通しがつくまで昼飯は抜き、名物のほうとうは食べられない。怨嗟の声を吐きながら、私は猛スピードで塩山を南下していった。

 大分歩いたであろうか、もうそろそろ丸石神が見えても良い頃なのに、道の両脇には何も見当たらない。丸石神はどこにあるのだろう。国道開通に邪魔だとばかり、取り除かれてしまったのではあるまいか。一人国道を歩く女に、ドライバー達の奇異な視線が注がれる。苦笑しながら、私は厭な予感と共に、地図を見つめなおした。

 再び笑顔で悟った――迷った。確認したはずなのに、大通りの分かれ道で見事別の方向を選んでいる。引き返そうにも、時間が立ち過ぎた。私は必至の形相で地図を睨み、全力で計画を立て直した。確かこの脇道を行けば、遠回りになるが元のルートと合流するはずだ。ニ、三個目当ての丸石をとばしてしまうが、この際選択の余地はない。今度こそ地図を見据えながら、私は注意深く角を曲がった。

 そこは静かな住宅街だった。新家と旧家が混在して続き、道幅は広々としているのに、殆ど車は通らない。ここに住んだら騒音とは無縁の生活が送れるのだろうか。隠居生活への憧れが頭をもたげる。

 そんな閑静な住宅街に、突如として異質な光景が展開した。現代日本の整理された十字路に、一部屋はあろうかというスペースを占領して、道祖神が立ち並んでいる。彫刻された地蔵や大きな長石に混じり、当然のごとく丸石も祀られている。

祀り過ぎ

 あまりの大胆さに、祀り過ぎだと突っ込みたくなったが、同時に私は心を揺さぶられていた。おかしな眺め以上に、美しいと思った。昼過ぎの長い光があふれる中、その一画だけに影が降りている。陰影の境目が世界の境目のようだった。サヘノカミは、あの世とこの世を繋ぐ神――その言葉通り、この道は別世界へ繋がっている。神秘的な様相に、私は戦慄を覚えた。丸石神の姿は、まぎれもなく神性をたたえていた。

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