丸石神紀行

十三年前の地図を頼りに丸石神を求め、山梨県を徒歩で旅したさまよいの旅行記。

  1. 序文:
  2. 丸石神誕生:
  3. 丸石神信仰:
  4. 丸石神分布:
  5. 終文:

5.終文

 長い間待たされて、私はようやく電車に乗り込んだ。真っ暗な山間に分け入って、電車は幾つものトンネルを抜けてゆく。すぐ横にある駅に気付かず、地図を持ってうろついたせいもあり、両手はすっかり凍えている。息を吹き掛けてこすりながら、私は結局丸石神に触れなかった事を思い出した。

 初めは丸石に触れ、冷たい岩肌に抱き着き、その重さや感触を確かめるつもりだった。生きているかのような丸石の腕一杯の丸みを、体に染み込ませたかった。丸石と会うまで、私は例え石フェチ石マニアと呼ばれ、塩山の人々に通報されようとも、それを実行する気だった。しかし丸石を目前にした途端、その気持ちは霧散した。

 丸石は神なのだ。ただ丸いだけ、ただ居座っているだけの姿は、不可侵なのだ。滑稽だと思った。おかしな光景だった。それでも私は、我知らず丸石からそっと離れたのだった。

 自分でも説明のつかない行動だ。臆病だったのかも知れない。石変態の汚名を負う事よりも、丸石神の領域を侵す事に怯えたのかもしれない。一見丸石と神性は、かけ離れているようにしか思えない。神と言うにはあまりに相応しくないとその姿だ。

 だが一つ言えるのは、山梨に丸石神があると言う事だ。ただ淡々と、移ろいもせず、今もそこに祀られている。

 私は見えない山肌を両脇に感じながら、これからも丸石神はあり続けるだろうと思った。

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